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SPECIALSSRとサイバーテック、音育を考える。

SSRとサイバーテック、音育を考える。vol.04

SSRとサイバーテック、音育を考える。

我々の日常を取り巻く様々な音。そのクオリティの低さを嘆くとともに、人々の無関心に危機感を募らせるのは、互いに長く音と真摯に向き合ってきたからこそ。まず取り組むべき喫緊の課題として「音育」の重要性を標榜する3者が、現状を憂い、音を巡る本来あるべき姿について語った。

  • 吉田 豊

    吉田 豊Yoshida Yutakaサイバーテック代表

  • 町野 眞人

    町野 眞人Machino MasatoSSR会長

  • 町野 眞貴

    町野 眞貴Machino MasatakaSSR代表取締役社長

SSRとサイバーテックの対談風景

見据えるのは、音を巡る環境の向上と意識の底上げ

――SSRは「音育(おといく)」の重要性を標榜しているとのことですが、「音育」とはどのようなものですか?

会長:言うまでもなく、音は我々を取り巻く世界に日常的に溢れ、常に我々は音と接しています。が、日々の生活を送るうえで、空気の存在を意識することがないように、音があること、音を耳にすることに意識を傾けることは少ないことかと思います。例えば、まずい空気を吸えば、人は「まずい空気だ」と反応するでしょうが、「まずくない空気」を体に取り入れ「うん。この空気はまずくない」との感慨を得る方は珍しいのではないでしょうか。音も同様に、悪い音・不快な音には拒絶を示す方はいらっしゃいますが、それ以外の音には大多数の方が無関心な傾向にあるようです。

社長:卑近な例をあげると、外に食事に出て、なにか居心地が悪いと感じる際、店頭に設置されているスピーカーが壊れているという場面に出くわすことは少なくありません。わたしが音響に携わる人間だから人よりも神経質になっているという向きはありますが、音がとりあえず流れていれば良い、それっぽいBGMのボリュームが出ていれば問題ないという風潮は音楽を提供する側にもあると思います。

会長:ひどい音に無神経なのは交通機関もしかりです。バスや電車、飛行機、船舶。出向いた先も、そこに向かう移動中でも終始不快な音がついてまわる現状に哀しい気持ちになるばかりか、この現状に多くの方々が無頓着であることに強い危機感を覚えています。

社長:我々が考える「音育」とは、この危機感を切実に捉え、より良い音で溢れる世界の実現を目指し、そのための意識作りを積み重ねていくこと。あらためてこうして言葉にしてみると大きな話になりますが、これが当社の謳う「音育」の実像です。

――なるほど。では、なぜ「音育」が重要なのかお聞かせください。

社長:音には、人を前向きにさせ、豊かにし、幸せにする力があると我々は強く信じているからです。音に対する細かい好みは人それぞれ多種多様です。それは人種であったり、文化であったり歴史であったり、個々人の嗜好であったり。ですが、基本的な部分、言い換えると生物学上、人間が共通して本能的に好む音は確かに存在します。我々は音響の分野に長く身を置くものとして、そのような音で世界が満たされる未来が来ることを願っていますし、その実現に向けてなにができるかを常に模索しています。

会長:もう一つ。社長の言葉に人種や文化由来の音の好みというものがありましたが、これは、我々人間が脈々と引き継いできた記憶に、心地良い音がしっかりと刻まれていることの裏返しだと考えています。つまり、音と精神とが密接な関わりを持つ証左でもあり、ひいては情操面で人間形成を考えるうえでも非常に重要なファクターだということ。そこで再び「音育」です。次世代の担い手とも言える子どもたちが、いかに良い環境で音と触れ合っていくかがとても大切になってきます。

SSRとサイバーテックの対談風景

――お子さんを取り巻く音の現状はどのようなものでしょう?

吉田:残念ながら、素晴らしい環境とは決して言えません。例えば彼らが日中の大半を過ごす教育機関の音響設備。各種式典や、校内放送、音楽の授業、最近ではダンスプログラムに至るまで、よくこんな環境でと思う現場は非常に多いです。
最近もある学校から、体育館で気分を悪くするお子さんが続出するという相談を受けたばかりで。詳しくお聞きすると体育館の真ん中あたりで気分が悪くなるというお話だったので、スピーカーの設置方法について確認いただいたところ、案の定、対になったスピーカーの逆相が原因だったことが分かりました。スピーカーはユニットの押し引きで空気を振動させ音を出すのですが、その押し引きの順序が左右のスピーカーで異なると、聞き手の耳元にはぐちゃぐちゃしたどっちつかずの音が届き、気分が悪くなるんです。このように配線して音が出たら終わりという乱暴な仕事を目にすると、どうにかしなければと想いを新たにします。
そういう意味では、SSRさんには、教育機関も含めた公的な施設の仕事に携わっていただきたいです。わたし自身も「世の中の音」の質の向上を目指す使命を強く感じていますが、これはSSRさんの「音育」と同じベクトルにあるものです。これまで培った経験や理論を体系化し、様々なデータを自身のホームページ上でオープンにしているのもこれが理由で、そこには、これまで以上の音を求めるために、次のステップにつながる足がかりやヒントとして少しでも役立てて貰えればという純粋な気持ちしかありません。

SSRとサイバーテックの対談風景

――低い意識が施工面でも常態化しているのは、由々しき事態ですね。こういった現状を招く背景にはなにがありますか?

吉田:音に対する意識低下の背景には色々とあると思いますが、ぱっと思いつくだけでも、ヘッドホンあるいは、イヤホンで音楽を聞くスタイルが浸透し、スピーカーで音楽を聞かなくなったこと。同時に、例えば動画投稿サイトにアップロードされた劣化した音源に聞き手が慣れてしまったことは一因になっていると思います。

会長:優れた音を耳にする、あるいは体感する機会の圧倒的な乏しさにも原因はあるでしょう。かつてオーディオブームで世が沸いた際に、聞きかじりの知識でもっともらしいことを並べて批評家然としていたオーディオ評論家が多くいましたが、そうあってはならないというのは当時からの持論です。本物を聴くべし、聴かせるべし。小規模な事業者ながらこの規模の試聴室を持っているのは当社ぐらいではないでしょうか。前社屋では、7割ほどの床面積を試聴室が占め、訪ねてくるメーカーの人間も一様に驚いていました。それほどまでに試聴室にこだわったのは、やはり本物を聴かずして何が語れようかという想いが強かったからに他なりません。

SSRとサイバーテックの対談風景

――よく分かりました。では、「音育」を意識した今後の展開や方向性について聞かせてください。

会長:吉田氏の提言にもあったように公共性の高い空間での音響システム構築が中期的な目標だと考えています。教育機関や、交通機関はもちろんのこと、介護老人保健施設をはじめとした医療や福祉の分野にも多くのニーズがあり、良い音でお年寄りを元気にするという社会貢献的な側面でも積極的に携わっていきたいです。

社長:我々が保有する試聴室には、多くの役割を期待しています。例えば、自分たちの技術や客観性を鍛える場としての使い方。音には様々な特質や特性がありますが、単純に綺麗な音色だけにとどまらない音圧や密度を立体的に加え、まずは、自分が感動できる音をデザインするメソッドの体得を我が社では全てのスタッフに求めています。自分自身の心が揺さぶられる音を掴むことで初めて自信を持ったご提案をお客さまにプレゼンできるからです。もちろんお客さまの業態やニーズなどの環境に応じてアレンジを加えることは必要ですが。
また、お客さまに本当の音を体感していただく場としてご提供することも当社の試聴室の有意義な活用法だと思います。音への意識を醸成、あるいは再構築するための素晴らしい体験をお約束するので、ぜひ気軽にご利用いただきたいです。
結局、当たり前の話に立ち返ることになるのですが、その空間に必要な音は、その空間にいらっしゃる方々が必要とする音。音響のプロフェッショナルとして、そのことを肝に命じ、自己研鑽を怠らず正しい客観性をそれぞれが身につけていく一方で、耳の基本的な機能が鍛えられるのは5歳までという学説もあるように、音が人の感性に与える影響や、どこまで精神に滲んでいくのかを見極めながら、人々の生活に則した音について考えていく時間を今後益々社内でも増やしていきたいと考えています。